2008年08月11日

聖火の向こうに思いを馳せよう

beijin2008.jpg

「次の五輪まで生き延びられるか不安だった」
 イラクのダナ・フセイン・アブドルラザク選手
                   健闘をたたえ合うロシアのバデリナ選手(銀)
                   とグルジアのサルクワゼ選手(銅)(左から)


いま目の前で、北島康介さんが金メダルを胸に表彰台に上がっている。
男子水泳100m平泳ぎで世界新を出して2連勝した。
一緒に闘った選手たちと次々に抱き合い、喜びの涙にむせぶ北島選手。
身体の故障の不安をかかえながらも、結果を出した。
平井コーチのこぼれる笑顔。

そして内芝正人男子柔道66kg級で2連覇達成。

やっぱり何だかんだ言われても、YAWARAちゃん、谷亮子選手。
あれだけのプレッシャーの中で、子育てをこなしながら
52kkg級の中村美里選手ともども、堂々の銅をとったのは驚異的だ。
だって世界中で3番目にすごいんだもの。

おめでとう!!!
改めて、人間はすごいと思った。


キラキラの笑顔。
女子陸上イラク代表の、ダナ・フセイン・アブドルラザクさん。

彼女のことばに胸が詰まる。

「次の五輪まで生き延びられるか不安だった。参加は何よりうれしい」

「(7月にイラクが出場停止処分を受けた時)五輪に行けないと思うと、
 衝撃のあまり大泣きして、食事ものどを通らなかった」

北京五輪:生き延びられるか不安だった…イラク選手、万感(毎日:080807)

イラク政府がイラク五輪委の人事に介入したことで、IOCは一旦資格停止処分。
その後、五輪委を、政府から独立させることなどを条件に解除。
彼女もまた、政治に振り回され、涙を流した。
戦争を生き延びながら青春の全てを賭けたトレーニングの日々が、報われる。

政治に翻弄され続けるオリンピック。
人間の力で政治を超え、国境を越えようとするアスリートたち。

紛争で今も苦しむ本国の元気の為にも、彼女の健闘を祈りたい。
0821追記:
08/16、女子100m予選。
ダナさんの結果は12秒台で、8人中6位の予選落ちだったけれど、
「順位は重要ではない。このトラックに立てたことが私にとっての勝利なのです。」
心から拍手を送りたい。



聖火台への点火へ向かう「天駆ける最終走者」リ・ニン(李寧)さんがほどいてゆく絵巻物は、
次々と聖火ランナーの顔で埋め尽くされ、ぐるりとスタジアムを包みこんだ。

スタジアムと、世界中のテレビの前の観衆の心に去来するもの。

チャン・イーモウ(張芸謀)監督のスケールの大きな演出は、
中国の大地と文化大革命の中での愛を描いた、チャン・ツィイーさんの出世作
「初恋の来た道(原題:私の父、母)」に通じる暖かさがあった。


北京08/10(日)の射撃女子10mエアピストル決勝で、ロシアのナタリア・パデリナ選手が銀メダル、
グルジアのニーノ・サルクワゼ選手が銅メダルに。(金は中国のカク・プンクン<郭 文?*>選手)

表彰式のあと、バデリナ選手はサルクワゼ選手を抱き寄せて頬にキスをした。

皮肉なことに開会式のあった08/08から、南オセチア自治州の領有権をめぐり、
両国は本格的な戦闘状態に入り、ロシアがオセチアに戦力を投入。
オセチア・グルジア・ロシアの兵士の方だけでなく
グルジア側だけでも2000人もの一般市民が亡くなっている。
08/10、これ以上の犠牲を避ける為グルジア軍の撤退が始まったが、どうなるんだろう。

Georgian athletes worry about violence in homeland(Washingtonpost:080810)

仲のいいライバルとして、2人はオリンピックをはじめ国際大会でも一緒に競って来たそうだ。

「何事もわたしたちの友情は壊せない」

「2人は政治とスポーツを混同したことはない」

「戦争を起こすのも止めるのも政治家。ちゃんと話し合ってほしい」

グルジアチーム広報:「選手全員が(母国の状況に)ピリピリしています。」
ロシアチーム広報:「両国選手団は『普通の関係』を続けて来ました。」

(*プンクン選手のクンの字は王偏に君)


旧ソ連に翻弄される前からグルジアは、もともとラテン文字文化だった北東部のオセチア人に、
グルジア文字を強要したりしたそうだ、アイヌ・琉球や東アジア諸民族の苦しみを思い出させる。

グルジアの親米政権がNATO(北大西洋条約機構)に加盟するのを牽制しているとか、
西部・黒海沿岸のアブハジア自治州にも独立闘争が飛び火するのを防ぎたいとか。。。

オセチアはロシア正教、グルジアは国名の通り聖ゲオルギウスを守護聖人にいただくグルジア正教の国。
宗教的には今になって急に、これを第一の理由に正面から敵対する理由はあまりなさそう。

やはりコソボの独立、オリンピックにタイミングを合せたムスリムの武装組織のテロ、
中国領チベット、ウイグル、内モンゴルなどの激しい抗議行動などが、
くすぶっていたオセチア人の心に一気に火を点けた、と考えるのが自然だと思う。

そして、忘れてはいけないのは、黒海・カスピ海沿岸諸国の石油の利権。
石油暴騰の中、豊原油資源をめぐりアメリカとロシアが、
南オセチアとグルジアの人々の命をを将棋の駒にして原油の取合いをしているように見える。
米露どちらもヴェトナムとアフガンの教訓を忘れ、人よりもカネだけを見ている

先行きはEUはじめ国際社会の、米露にへつらわない勇気ある働きかけにかかっている。
古代オリンピアの頃は、競技会の開催期間中は戦争を中断したそうだ。



豆知識:
ドラゴン退治物語でヨーロッパ人にはおなじみのゲオルギウスは、ローマ・ラテン語
もとはギリシア語のゲオルギオス(中世読みだとイェオルイオス)で「農夫」の意味 。
ジョージ(英)、ジョルジュ(仏)、ホルへ(西)、ジョルジョ(伊)、ゲオルクまたはユルゲン(独)、
ゲオールギイまたはユーリイ(露)。。。それこそ言語の数だけある。
キリスト教文化圏の人なら聖人にあやかった人の名前を聞くと、民族に関係なくピンと来るそうだ。

これまた皮肉なことに、ジョージ・ブッシュ大統領もゲオルギウスの名を持つ。

さらに余談だけど、マドンナ(伊)、ノートルダム(仏)、ノストラダムス(ラテン語)は
全てMy Lady(英)またはOur Ladyの意味で、聖母マリアのこと。


チャン・イーモウ監督作品はいいですね。まだの方はゼヒ!
  「あの子を探して」
   「初恋の来た道」
    「至福のとき」
涙腺の健康のため、用法用量をまもってご覧下さい。
連チャンでご鑑賞の方は、バスタオルを用意の上ご覧下さい。

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北京五輪:生き延びられるか不安だった…イラク選手、万感
<引用開始>
 【北京・和田浩明】「次の五輪まで生き延びられるか不安だった。参加は何よりうれしい」。北京五輪の女子陸上イラク代表、ダナ・フセイン・アブドルラザクさん(22)は6日、選手村で念願がかなった喜びを語った。国際オリンピック委員会(IOC)が7月、イラク五輪委員会を一時資格停止処分にしたことで、絶望視されていた出場。フセイン独裁政権時代から03年のイラク戦争と、渦巻く暴力の中で続けた練習の成果を世界に示す機会がようやく訪れた。

 IOCは7月23日、イラク政府がイラク五輪委人事に介入しているとして処分を決めた。バグダッドで一報を受けたダナさんは「五輪に行けないと思うと、衝撃のあまり大泣きして、食事ものどを通らなかった」と話す。

 だが、IOCは同30日、「イラク五輪委を、政府から独立したものとすること」などの条件付きで処分を解除した。代表選手7人のうち4人が出場できることになった。「子供のように飛び上がって喜んだ。参加するからには優勝を目指す」

 バグダッドからは3日間をかけ、4日深夜に北京に着いた。日本メーカーのシューズを持参したが、ドバイでの乗り継ぎで紛失した。報道で知った米国人が寄付してくれたシューズで練習と本番に臨む。

 子供のころから、かけっこが好きだった。15歳の時、中学校の百、二百、四百メートル走ですべて1位になった。そこで才能を見出され、訓練を受け始めた。

 しかし、旧政権時代はフセイン元大統領の息子ウダイ氏(03年の米軍作戦で殺害)がイラク五輪委会長を務め、スポーツ選手に対し虐待や拷問をしていたとされる。「娘が目立つのを恐れた父は、競技への参加を許してくれなかった」とダナさんは言う。

 03年のフセイン政権崩壊後、競技に本格的に参加し、頭角を現した。二百メートル走の女子イラク記録24秒82はダナさんのものだ。しかし、現在も米軍と武装勢力の衝突は続く。身代金目的で誘拐された友人もいた。身の危険を感じながら、高価な用具の入手もままならないまま練習を続ける。

 それでも母国の治安は、安定に向かいつつあるように感じる。「すべての国民が安全に暮らせる日が早く来てほしい」と祈る。「五輪に参加する以上は優勝を目指します」と語る顔には静かな決意がみなぎっていた。

<引用おわり>
posted by Francisco at 14:08| Comment(0) | TrackBack(11) | 日々雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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