カリール・ジブラン 著
佐久間 彪 訳
至光社 1984年(上製本)/1990年(ポケット版)
上製本版はこれ
ポケット版はこれ
26章の詩篇のことだまが、ココロに灯をともし、道しるべとなる。
レバノンの哲人ジブラン(1883-1931)が宗教・文化の対立を超えて出み出した果実。
30ヶ国語以上の訳で、80数年間に2000万部以上が読み継がれ、聖書に次ぐ世界の愛読書と言われる。
日本でこの本がほとんど知られていない不思議。
日常生活に埋もれていると、こんな一節にギョッとさせられる。
子供について
そこで、子供を胸にかかえた女が言った。
お話ください。子供のことを。
アルムスタファは言った。
あなたの子は、あなたの子ではありません。
自らを保つこと、それが生命の願望。
そこから生まれた息子や娘、それがあなたの子なのです。
あなたを通ってやって来ますが、あなたからではなく、
あなたと一緒にいますが、
それでいてあなたのものではないのです。
子供に愛を注ぐがよい。でも考えは別です。
子供には子供の考えがあるからです。
あなたの家に子供の体を住まわせるがよい。
でもその魂は別です。
子供の魂は明日の家に住んでいて、
あなたは夢のなかにでも、そこには立ち入れないのです。
子供のようになろうと努めるがよい。
でも、子供をあなたのようにしようとしてはいけません。
なぜなら、生命は後へは戻らず、
昨日と一緒に留まってもいません。
あなたは弓です。
その弓から、子は生きた矢となって放たれて行きます。
射手は無窮の道程にある的を見ながら、
力強くあなたを引きしぼるのです 。
かれの矢が遠く遠くに飛んで行くために。
あの射手に引きしぼられるとは、
何と有難いことではありませんか。
なぜなら、射手が、飛んで行く矢を愛しているなら、
留まっている弓をも愛しているのですから。
赤ん坊は「天からの授かりもの」。
未完成な生き物ではない。
ゲノムの中に全ての可能性を備えた、かけがえのない完全体としてやって来る。
ただ、人生の経験がないだけ。
ましてや親の所有物ではない。
小さな仲間に、畏敬の念を持って対し、
しっかり育てて社会にお返しすること。
教育とは、そういうことだろう。
放任しても、過干渉しても、まして小手先で法律をいじっても、子供の幸せには直結しない。
ついつい忘れてしまう大切なもの。
この本は、まるで谷川の水のよう。
手許において、のどが渇いたら、繰り返し読みたい。
この宝物を邦訳された佐久間彪(さくま たけし)神父もまた、
宗教家、神学者としてだけでなく、
作曲家、画家、絵本作家としても素晴らしい仕事を沢山されている。
一体何ヶ国語を操れるのか、知の巨人みたいな方だ。
ちなみに神学校時代のクラスメートは
いまのローマ法王・ベネディクト16世だとのこと。
そんな年輪を忘れさせる、少年のような感受性。
不可逆な時間の矢。。。月日は百代の過客(はくたいのかかく)。
人はたった一人でやって来て、たった一人で帰って行く。
中学生の頃、祖父の弔いで、浄土真宗の和尚様とお話をした時の事。
管理人:「人が死ぬと、どこかへ行くんですか?」
和尚様:「死ねば『無』ですよ。大切なのは君達がいかに生きるかです。」
古今東西の思想が同じことを真ん中に置いて来た。
「あ/阿」 〜 「うん/吽」
「オー」 〜 「ム」
「アルファ/Α」 〜 「オメガ/Ω」
「ing/陰」 〜 「yang/陽」
「0bit/生ずること」 〜 「1bit/滅すること」
「ビッグバン」 〜 「ビッグクランチ」
一瞬の生の中、凡人にも、日々の楽しみはある。
すてきな本との出会いも、そう。
ジブランに大きく生き方の影響を受けたと言う
故・星野道夫さんの訳も、シンプルな愛があふれて、いいね。
あなたの子供は、あなたの子供ではない。
彼らは、人生そのものの息子であり、娘である。
彼らはあなたを通じてくるが、あなたからくるのではない。
彼らはあなたとともにいるが、あなたに屈しない。
あなたは、彼らに愛情を与えていいが、あなたの考えを与えてはいけない。
何となれば、彼らは彼ら自身の考えを持っているからだ。
あなたは、彼らのからだを家に入れてもいいが、
彼らの心をあなたの家に入れてはいけない。
何故なら、彼らの心は、あなたが訪ねてみることもできない
夢の中で訪ねてみることもできない、あしたの家に住んでいるからだ。
あなたは彼らのようになろうとしてもいいが、
彼らをあなたのようにしてはいけない。
何故なら、人生はあともどりもしなければ
昨日とともにためらいもしないからだ。
これは大自然への接し方の理想形でもある。
星野さんて、改めてすごい人だと思う。
振り返って凡人の人生は。。。かくのごとし。
100年後に自分を知ってる人は地球上にいない。
ちょっとだけ後の世の中に役立つことを考えながら、
今を精一杯生きれば、それでいいじゃないの(^^)
ジブランはキリスト教徒として貧困の中で生まれ、アメリカ移住後はアラビア語・英語を操り、文学・思想・絵画を横断する活動をし、宗教・民族の違いを超えた神秘主義の高みに到達した。
「預言者」(The Prophet)出版は、1923年。
他にもいくつか日本語訳が出てるので、好きなものから入ればいいと思う。
・成甲書房:船井 幸雄さん「預言者 The Prophet」 (単行本)
・角川文庫:神谷 美恵子さん「ハリール・ジブラーンの詩」(文庫本・部分収録)
・サンマーク出版:有枝 春さん「預言者のことば」 (単行本)
世界的なイスラム書道の第一人者、本田孝一さんも、もう何年もの間、新訳に取り組まれているそうだ。
在日レバノン人の方にお聞きした。
この本には、後に続く人をそうさせるだけの豊かさがある。
珍しくちょっぴり哲学的な管理人でした。
【関連する記事】
星野道夫さんの「旅をする木」をつい先日読みました。
とても素敵な人ですね。
人間はまだまだ捨てたものじゃないと思わせてくれます。