外は晩秋の嵐が吹き荒れて。
こんな日は、やがて来る冬の日を夢想しながら、ロシア風に氷砂糖を一粒口に含んだら、ストロングな熱々のコーヒーを味わいましょうかね。
久々に音楽ネタです。
ヤバいものマニアに愛されてる「くるみ割り人形」の一枚を紹介。
「白鳥の湖」「眠れる森の美女」とともにチャイコフスキーの3大バレエ曲と言われとります。
無数の名演が乱立し、さんざ手垢付きまくりの曲に、今さら何を取って付ける?
いやいや、だからこそですよ。
ムラヴィンスキーも、スヴェトラーノフも逝ってしまったけれど、俺たちにゃゲルギーがいるじゃんよ!!
ワレリー・ゲルギエフ指揮、 ワレリー・ボリソフ合唱指揮
サンクトペテルブルク・キーロフ歌劇場管弦楽団、同合唱団
初版フィリップス // 現マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
(1998年、ドイツ・バーデンバーデンにて録音)
フィリップスのオリジナル・カワユス版
最近の無愛想オヤジ顔版
初演に立ち会うような鮮烈なショック。
作家の遺した記号だけを手がかりに、推理し直された全体のイメージは、ガチでザッハリヒ(リアル)かつ、ハードボイルドでありながら、真っ赤に焼けた鋼鉄みたいに熱いロシアのハートが溢れてる。
レジに出すのが照れ臭い、愛くるしいワンコのゼンマイ人形との、ギャップは何だ?
直輸入盤はディスクにも同じデザインがシルク刷りされた、息を呑むようなデジパック仕様。
カニエ・ウエスト御大の懐かしの名盤"GRADUATION"(*1)並だよね、こりゃ。
こりゃこりゃ、総ダイヤモンドの前歯でニッと笑うなって。
いつもの、おとぎの絵本に出てくる「よい子のクララちゃん」よりは、第501統合戦闘航空団・ちょい男前な美少女の、出撃前夜の胸さわぎ。
オヂサンは、イケナイものを見ちゃった気分に...(;´Д`)
もとい。
曲間を空けず、ヘヴィメタアルバムよろしく音楽はジェットコースターとなって万華鏡の世界を駆けめぐり、全く飽きさせない。
ヨーロッパ直輸入盤では、容量ギリギリの81分超の組曲が、1枚のCDに収まっている(*2)。
これだけで10年前としては異様だった。
譜面の速度・表情などの表示をキッチリ守る、当たり前の事のすごい効果。
(これって、20世紀後半には結構ないがしろになってたよね。)
巧みなバランス調整で、普段聴いた事のない裏メロ(対旋律)が全部あらわになる。
時に弦は、変幻自在なボウイング(弓運び)で、人の声として喋り出す。
ヨーロッパのクラシックは、純粋な器楽曲(インスト)だって、「ナラティヴ(語り)」・「ドラマティック(劇的)」が基本。
そう。
すべては「唄うこと・語ること」が下敷きになってるんだね。
クラシック演奏の尖端部は、マジでヒップホップしてると思うよ。
「ビブラート全面禁止」みたいなベタな古楽演奏の手法は使わなくても、
研究の果実をしっかり消化した上での、過去から現在を透視した一つの解答がここにある。
クラシック・ファンにとって、何でもアリの楽しい時代に生まれ合わせた悦び。
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーは三重の意味で社会のエッジを生き抜いた。
(Пётр Ильич Чайковский/Peter Ilyich Tchaikovsky/1840 - 1893)
異形(いぎょう)の人として。 ― 神が彼女に課した「男」であるという試練。
異民族として。 ― 祖母から引き継いだ「フランス系」という少数民族の血。
異星人として。 ― そして何よりも彼女は「芸術家」として生れ落ちてしまった。
ノンケでないことが音楽関係者に知られたときは、19世紀のキリスト教社会のこと、悲惨だったようだ。
「ロシア楽壇の名誉の為に自殺しろ」と人権もへったくれもないプレッシャーをかけられたとか。
秘密はボーイフレンドの口から漏れたらしい。。。なんてこった。
チャイコフスキーはヒルデガルト・フォン・ビンゲンと並ぶ史上最大の女性作曲家の一人と言える。
そして一般にはコレラによるとされている死因にも、毒による追い込まれ自殺等の疑いが残り、新グローヴ音楽事典は正直に「死因は不明」と書いてる。
→調査報告書:チャイコフスキーの真の死因は何か?(音楽史ミステリー探偵事務所様)
音大では、才能がありながら世に出られないミュージシャンの就活に心を砕く、優しい先生だった。
自らのつむぎ出すメロディーそのもののように。
夭折の天才交響曲作家、カリンニコフの赤貧を見かねて、オケのファゴット吹きのバイトを世話したそうだ。
多くの女子が幼い頃に一度は憧れるバレリーナ。
夢あふれるステージでで王子様と結ばれる主人公達は、決して当時の社会ではかなう事のなかった、ピョートル自身の憧れの代弁者だったのだろうか。
それを知って、死の前年に作曲されたこの曲を聴くと、オケが華麗で美しいサウンドを奏でれば奏でる程、切なさが締め付ける。
ゲルギーのチャイコの原風景はこれかな。。。
↓
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮
レニングラード・フィルハーモニー
チャイコフスキー 交響曲第4・5・6番
(1960年録音)
この録音、そろそろ50年になるのに、今もゆるぎない横綱中の横綱。
しかも3曲入ってお徳用。
グラモフォンからユニバーサル ミュージックに販売が引き継がれ、
2枚で3曲入りだったため5番が途中でちょん切れてたのが、3枚組みで改善された(^.^)V
マエストロの言葉:「チャイコフスキーもショスタコーヴィチも、ベートーヴェンから生まれた。」
ありがちなベタついた感傷を排して、ただひたすら楽譜を読み解き、
コンテクストを上空からわしづかみにして行く。
オケの気迫は聴いてる方の胸が痛くなるくらい。
押さえつけられた緊張の隙間から立ち上る情感。
日本では6番「悲愴」ばっかり人気があるけど、この4・5番は別格だ。
5番のホルンのソロ、4番の冒頭の運命のテーマ、挙げればキリがない。
当時のソヴィエトでは本番でミスるとシベリア送りって言うウワサ。
。。。シャレにならないってば((( ;´Д`)))
ちなみに管理人は、レコード屋さんのCD陳列棚で
”Мравинский”(ムラヴィンスキー)の背文字を目にすると、
パブロフ状態で手に取っちゃうんだな、これが。
*1:GRADUATIONは、社会の嗚咽(おえつ)をカワイく包む村上隆さんのアートワークがクールだし、
鉄面皮の「男Perfume(なんじゃそら?)」"DAFT PUNK"の「本歌取り」も、
小洒落てて好きだなあ。
(デジパック:厚紙ジャケにプラ製のCDトレーを貼った装丁)
*2:もともと音楽CDの規格は、カラヤンさんがSONYの大賀さんに
「オレの第九が入るように74分にしたら?」
ってアドバイスしたのが決め手になった…かどうかは別として。
650MBのディスクだと確かに74分しか入らないけど、CDには規格上まだクリアランスがある。
実際には700MBのディスクなら、ビットレート44.1kHz・ステレオで、80分ちょっと入るし、
もっと高密度に記録できるCDメディアもある。
ゲルギエフさんは、コンサートでドキドキするみたいな緊張が欲しかったんだろう。
CD2枚ならディスクチェンジのタイミングでトイレ行っちゃったりするからね。
リスナーの音楽体験がリッチになる方を重視して、
めんどくさくても、レコード会社を説得したんだろう。
ヘンな構成のCDって言えば、鬼才ジャン=クロード・マルゴワール率いる
古楽器アンサンブル版の、バッハの白鳥の歌(絶筆)「フーガの技法」。
同じく最後の作品集となった芭蕉の「奥の細道」に似た宇宙的孤独世界(意味不明)。
カノンの異稿が1曲収録されてるけど、それががたった10分位の別CDで添えられてる。
(リリース:1993年 // レーベル:K617 // 品番:K6170 40/1)
レコード会社が聞いてくれなかったのか、マルゴワールさん自身がわざと別立てに
こだわったのか。 ワッケワッカラン(ノ・ω・)ノ ヘ(・ω・ヘ) (ノ・ω・)ノ♪
ちなみにバッハ(1685年生れ)が9歳の年に松尾芭蕉が没している。
※ あえてタイトルに「女性作曲家」の表現を用いたのは、
男性のジェンダーの目線だけで生きることができなかったであろう、
チャイコフスキーの痛みをイメージとして込めたもので、
LGBTの方を差別する意図は全くありません。