2007年03月14日

熱帯雨林・夢の架け橋

熱帯雨林研究の伝説的生態学者、井上 民二さんが志なかばで急逝してから今年で10年を迎える。
井上さんは京都大学生態学研究センター教授として、若い仲間たちと一緒にボルネオ(カリマンタン)島のジャングルで、あらゆる生き物が共生する仕組みを解明しようとしていた。
植物の受粉戦略が昆虫を進化させ、昆虫の生態が植物を進化させる。
ページをめくるたびに驚きの連続が待っている。

井上 民二: NHKライブラリー/生命の宝庫・熱帯雨林(日本放送出版協会・1998年・ソフトカバー単行本)

熱帯樹林の頂上は、深海底と並んで人類が足を踏み入れた事がない、最後のフロンティアだ。
井上さんは熱帯雨林の地上40mの林冠に、「キャノピーウォークウェイ」という吊橋を架けた。
これなら木や動物・鳥・昆虫の生活を荒らさずに、その驚くべき世界を観察できる。
これは今や熱帯雨林の生態研究になくてはならない標準的手法になっている。

この本を読む者は、ヒトを産み育ててくれた大自然の精妙さへの、いとおしい思いに打たれることだろう。
井上さんは1997年9月6日、研究フィールドへ移動中、この本の上梓を待たず小型機の墜落で亡くなった。享年49歳....

→まずはココをのぞいてみよう
EcoNavi・特集No.33・熱帯雨林 オランウータンと共生のネットワーク

会話形式でボルネオの森の奇跡のように複雑な生命のネットワークへと、誘ってくれる。いかに自然の多様性が豊かなものかがわかる。

昔は広葉樹の雑多な森で覆われていた日本も、維新以降の国策で全国スギだらけの単一林の国になった。
里山を丁寧に人が管理していた時代はよかったけれど、戦後山林の荒廃と共に、自然の力だけではバランスがとれなくなった。
生き物が急速に消えていき、土石流などの災害も多発するようになった。クマやイノシシとヒトとの陣取り合戦もそうだ。

より深く知るにはこれ→井上 民二: 熱帯雨林の生態学―生物多様性の世界を探る(八坂書房・2001年・単行本)

ドリアンが果物の王様って呼ばれるくらい複雑な味わいを進化させたのも、グルメなオランウータンに種を運んでもらうためためなんだそうだ。
もはや絶滅が秒読みに入ってしまった野性のオランウータン…
遺志を継いだ教え子の方があとがきで、ドリアンを口にするたび、先生の熱い想いと滅び行くオランウータンへの愛惜がひとつになってこみ上げてくる、と記している。
posted by Francisco at 13:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 良書百選 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック