生物学者リン・マーギュリスさん(マルグリス)とサイエンスライター、ドリオン・セーガンさん*の共著による、マジで衝撃的な進化論。
(*宇宙科学者、故カール・セーガンさんとの間に生まれた彼女の息子さん)
→リン・マルグリス&ドリオン・セーガン:ミクロコスモス―生命と進化 (東京化学同人 ・1989年・単行本)
生物がまだみんなバイキンだった頃、それは「原核細胞」っていう小さくてDNA(遺伝子の記録メディア)むき出しのシンプルなものだった。
親も子もない、分裂して同じものが増えるだけ。寿命というものがない。個体の「死」が存在しないエデンの園。
でも細胞一つを見れば、わずかな稼ぎ(エネルギー)で生きるのに精一杯の、家族で自転車操業の小さなお店。
ある日ミトコンドリア家のバイキン主人は気付いた。
隣の大きな店で下働きしながらイソウロウした方が家賃が浮くじゃないの。
葉緑体家の主人もスピロヘータ家の主人も同じことに気付いた。
あちこちでそんなことが続くうち、巨大な百貨店がいくつもできていた。
こうして色んな器官が取り込まれて今の動植物のもと:「真核細胞」が誕生したんだって。
大事なDNAも核膜っていう立派な大金庫に納まった。
複雑な流行にも対応できるように「性」を発明して、世代が変わるたびに違う顔かたちや体質をもてるようになった。
そして生命は度重なる大絶滅を何度も乗り越えて、今日まで続いて来た。
ただ代償は重い。禁断の果実をかじった生き物は寿命を持った。
つまり「死ぬ」運命になった....
ただの寄生とちがう、ギブ・アンド・テイクの関係を「共生」という。
マーギュリスさんは我々の細胞の中の内臓ともいえる小器官、オーガネラ(オルガネラ)の起源に目を付けた。
代表的なオーガネラにミトコンドリアがある。これは猛毒だった酸素をエネルギー源に換えてしまった。
これは蒸気機関と核融合みたいな革命的な進化。
生物がバイキンから大型化して動植物になれたのはこのおかげともいえる。
これは酸素でエネルギーを作る細菌が入り込んだと見られる。
鞭毛(べんもう)って言う、細胞が泳ぐためのスクリューもある。これは分子レベルのナノモーターが仕込まれてて、ホントに回転軸が回る。
おかげで細胞は移動能力を身に付けた。
これはスピロヘータって言うワインの栓抜きみたいな螺旋状に運動する細長い細菌が取り付いたらしい。
そして葉緑体。炭酸ガスと光さえあれば食べ物を作れる魔法の機械。これも、植物誕生のきっかけを作ったオーガネラ。
このおかげで地球は炭酸ガスの星から酸素の星となって、生き物が海から陸に上がった。
これは光合成細菌が入り込んだと言う。
40年前の1967年当時、この共生説はバカバカしい思い付きとして軽くあしらわれていたけど、DNA生物学の発達で驚くべき事実が明らかになって来た。
ミトコンドリアやスピロヘータ、葉緑体は細胞核とは別系統のゲノム(種族としてのDNAつまり遺伝子の、ワンセット)を持ってることを発見。
やっぱり真核細胞は異種の生き物が融合してできたらしいぞと。
細胞内共生説はココがわかりやすい。(科学のあらゆる分野を横断している、とっても刺激的なサイトです)
→1967年発表/細胞共生説/リン・マーギュリス(量子論と複雑系のパラダイム様)
ミトコンドリアは母親の卵細胞(タマゴの黄身・胚種)で相続される。父親の精細胞(精子・花粉)に載ってる分は受精時に捨てられる。
だから我々が両親の血を半々に受け継いでいる、と言うのは厳密にはウソなんだね。
ミトコンドリアは女の人伝いにしか遺伝しないから、遡ると原理的には最初の人「イブ」に会える。これが「ミトコンドリア・イブ」。
ミトコンドリアのDNAの突然変異のスピードは分ってるので、人種間の血筋の分かれた順番も調べられるようになった。
で、アジア人もミクロネシア人もヨーロッパ人も、アフリカ人から分家して、土地に順応したって事が分った。
アダムとイブはアフリカ生まれだったんだね。
ミトコンドリアや葉緑体がウイルスみたいに大家さんを食いつぶすことがないのは、長い間の試行錯誤でDNAの一部を契約書として大家さんの核内DNAに渡したかららしい。
実は、DNAはウイルスに紛れたり、プラスミドっていうドーナツ型の小さなカプセルになったりして、生物の種間で結構フツーにやり取りされてるらしいことが最近分ってきた。
「生物は突然変異をゆっくり重ねながら自然淘汰をじっと待って、運がよければ行き残る」
っていうダーウィン型の進化論だけじゃ不十分なので、
「生物は地球上の遺伝子プールの中から材料を次々トライして、自分のなりたいものになって行く」
っていう、とんでもなくエキサイティングな進化論への、パラダイムの転換がいま起こりつつあるんだって。
マーギュリスさんの思想は40年の歳月の中で色んな分野の研究と結びついて、豊かな収穫期を迎え始めている。
なぜ性があるのか、なぜ死ぬのか、みたいな素朴なギモンのヒントも既にこの本に示されている。
(その辺に心ひかれたら、ゼヒ柳沢桂子さんの本を1冊読んでみよう。どれも科学者としての、命に対する素朴な畏れと愛があふれていて感動的だ。)
40年前かあ。マーギュリスさんはジェームズ・ラブロックさんと一緒に「ガイア仮説」を打ち立てた事でも知られてるしね。ホントにすごい人だ。
※070323追記:理研(理化学研究所)が2000年に画期的な研究成果を発表している。
→世界で初めて共生微生物「ブフネラ」の全ゲノムを解析
アブラムシ(アリマキ)の細胞中に共生するブフネラという細菌はDNAの一部をアブラムシに渡し済みである上に、細胞膜も失っていて、外界では生きられない。アリマキもブフネラ抜きでは必須アミノ酸が足りなくて生きられない。
この共生関係は2億年も続いてて、いままさに細菌がオーガネラに進化しつつある途中なんだそうだ。ちょっと感動。
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新着から流れてきました、もったいないお化けと申します
ダーウィンの進化論には昔(小学校のころだっけ?)から疑問を持っていました
生物の寄生進化論とも言えるこの考え方は私も至極納得のいくもので、最近になってよく取りざたされるようになってるようです
だってダーウィン論ってばダイナミックさに欠けるんだもんよ
最近になって過去の研究結果が見直されていると言うか再認識されている事例が多いようですね
地球全体氷付けだったとか・・・
あ、すいません
突然お邪魔してなんかわけのわかんないことほざいてますね
今日はこの辺にして、また寄らせていただきます
コメント有難うございます。
メンデルの法則もダーウィンも、大局的には合ってるのでしょうが、自然界のヒミツが見えるに従って、常に新しいモデルに吸収されていくのでしょう。
コペルニクスやニュートンの力学がアインシュタインにカバーされたけれど、量子論とともに不足が見えてきて、超ひも理論などが出てきたのと同じですかね。
その中で返り咲く概念と言うのは、考えた人のインスピレーションが優れていたのでしょう。
脳が新しい科学・芸術・哲学を生み出す仕組みは根っこが同じような気がします。モーツァルトの作曲法や神秘体験のように、ヒトに備わった、全体を直感的に捉える力というのでしょうか。
よろしかったらまた是非遊びにいらして下さいね^^