それは、日本のポピュラー音楽史の特異点。
1982年~1985年、ビクタースタジオの中にだけ存在した伝説のユニット。
林 立男 (はやし たつお) Drums
今 剛 (こん つよし) Guitar
難波 正司(なんば ただし) Keybords
西松 一博(にしまつ かずひろ) Vocal
浦田 恵司(うらた けいし) Syntesizer,Programming & Manipulation
勘のいい人なら、このメンバーを見ただけで本能的に鳥肌が立つはずだ。
約2年半に及ぶ、音との濃密な対話。
そして85年、たった1枚のアルバム"Aragon"をリリースし、それぞれの持ち場へ帰っていった。
最高にカッコいい。
ロックでも、ジャズでも、ポップスでも、民族音楽でもない。
ピーンと張りつめた神聖な空間に身を浸すような不思議な世界。
Title: Aragon(アラゴン)
Artist:Aragon
ビクター音楽産業
LP:HIV-28207(発売 850121)
CD:VDR-77(発売 850205)
ともに廃盤
約20年も経つのに、聴くたびに音楽の奥行きと、その驚異的な音質に息を呑む....
実はAragonにはメイキングの過程だけを記録した幻のアルバム、
"the studio works - the birth of aragon" というものまで存在する。(LPのみ・廃盤)
特に「ものづくり」を志す人には(音楽・芸能に限らず)、フルアルバムと併せて中古屋さんやオークションで見つけたらゼヒGETし、聞いてみることをオススメします。
本編収録の「あやとり」という曲について、プリプロ(デモ段階)から完パケ(マスターに起こせる段階)までを、完全密着でナマの現場の息遣いを教えてくれる。
詳細を極める解説書はまるでバイブルのようだ。
モノを創って人に届けるとは、どんなに厳しくて、いとおしい仕事かを改めて気付かせてくれ、胸が熱くなる。
デモを作るのに、本チャンと同じスタジオをベッタリ押さえて、5人とエンジニアが煮詰まってウンウンと苦しんでいる。
「デモ」でだよ。彼らの要求する音楽のレベルが高すぎるのだ。
サラリーマンであるエンジニアややディレクターは、スタジオ代の高さを一番知ってるのに、最大のサポートをしている。
スタジオでは卓(コンソール)と録音ブースの間の会話まで、尺が許す限り録っちゃってることが多い。
膨大なテープから切り取られた、プロ同士のリスペクトと気合が満ちた風景は、文句なしに興奮する。
Aragonというアルバムには、作品をを企画し・創って・製品にし・流通させ・売り届ける、全ての関係者が「音楽家」として仕事をした、その愛がギュッと詰まっている。
残念だけど、パラシュート時代からの盟友、ドラムスの林さんは何年か前に現役活動を引退されたそうだ。
ほかの4人の方は、スタジオに、ライブに、後進の指導にと活躍されている。
音楽家の良心の証明がここにある。
隠れた名作アニメ「クラッシャー・ジョウ」の音楽を担当していたのもAragonだから、こっちで知ってる人もいるかもね。
1995年に "浦田恵司プロジェクト" 名義で「月光」というAragonの流れを汲む名盤も出ている。
今剛さん、松原正樹さん、和田アキラさん、浜口茂外也さん他豪華メンバー結集。
それにしても、再発売される可能性の低い貴重な音源を合法的にネット上などで共有できるような法整備って、いつの日か実現しないかなあ。
ああ、MOTTAINAI、MOTTAINAI。
【関連する記事】