「小田実 遺す言葉」
昨年7月30日に亡くなった小田実(おだ・まこと)さんのETV特集を見た。
(3/9(日)夜、NHK教育テレビ)
民衆の拍手と「万歳」の声の中を行く霊柩車。
背筋が伸びる。
鶴見俊輔さんたちとベ平連を立ち上げ、
ベトナム反戦のムーブメントを日本に巻き起こしたたくだりから
死の床でなお衰えない、執念の執筆活動に至るまで
全てをを貫いているのは、国を超えた、
「普通の市民」、「小さな人間」の目線だ。
それが民主主義の原点だと言い切る。
「革命的な憲法を持つ日本は、いいところがあると思っている。」
「軍事産業だけを中心にしないで、平和を掲げここまで発展した国は
日本だけだ。
民主主義と平和主義を結びつけたのは日本だけ。
アジアと日本をメチャクチャにした反省から、革命的な平和憲法を掲げ
ここまで来たを国を、なぜ戦前回帰させるのか。」
体を病魔に蝕まれ、限られた時間を無駄にするまいと、
カメラの前で語る小田さんは、怒りの涙に声を詰まらせた。
「今アメリカ・ブッシュ政権は、日本の国民健康保険制度を
つぶしに掛かっている。
テレビをひねれば外資系保険会社のCMばかりだ。
世界は、怪物のような『旧いアメリカ』と手を切りたがっている。
EUもそう。ベネズエラ・ボリビアのようなラテンアメリカを見ても分る。
アメリカ人自身も、そこを変えようと苦しんでいる。
世界中でなぜ日本だけが、ブッシュ体制の旧アメリカを支援し、
日本人を苦しみに導き、アメリカ人さえも苦しめようとするのか?」
奥さん(画家・ヒョン・スンヒェ(玄順恵)さん)は渡航の自由さえままならない
在日の朝鮮籍で、小田さんとの間にお嬢さんががいる。
「私が大きくなった時に世の中は変わっているの?」
かつて、幼い娘の質問に答えられなかったことが引っ掛かっている。
視線はいつでも優しくアジア全体を巡っている。
小田さんが留学生の頃アメリカで見た新聞記録では、日常のファッション広告の脇で
B29からの空撮が、サラッと載っていた。3/14の大空襲で煙に包まれる大阪の街。
大阪・広島・長崎・東京と虐殺が続いても態度を決めない日本政府に
圧力を掛ける為だけに再度焼かれた街。炎の中に小田少年はいた。
ベルリンの壁を超えようとして死んだ人たち。
9・11。
報復の中東侵略で命を落とす人々。
イラク派兵差し止め訴訟の請求却下の屈辱。
阪神淡路大震災の被災者の公的援助をいつまでたっても無視し
高速道路だけをサッサと直す国。
動かないなら市民が権利として声をあげ、立法させる先頭に立つ。
「難死」というキーワードで小田さんは世界のしいたげられた
普通の市民の心をつなごうとする。
「国民の税金を使って、最低投票率も定めないまま2割の賛成で改憲。
メチャクチャな独裁的なやり方で憲法改悪しようというのは、
あきらかに憲法違反だと思う。」
こんな勇気のある番組を放送するNHKに拍手を送りたい。
そして、NHKの国家統制と民営化も防がなければならないと
改めて思った。
3/8(土)18時10分、同じNHK総合の「週刊こどもニュース」に考えさせられた。
NHKの報道・番組制作体制を取り巻く状況は、思ったより深刻かもしれない。
前半で原発特集をしていたが、プラントの構造や核廃棄物の処理法を
ひとしきり解説したあとで、六ヶ所村の再処理工場とプルサーマル発電の話に移った。
「核廃棄物は、使えないゴミと、まだ使えるリサイクル原料に分けられる。
使えないゴミはキケンな放射線がいつまでも出続けるから、
安全な処分場所を決めたり、よく考えないといけないけれど。」
「リサイクルした原料はプルトニウムって言う燃料に変えて、ウランと混ぜれば
また発電に使えるんだよ。六ヶ所村は早ければ5月にはプルトニウムの
リサイクルを始められるんだ^^」
ウランの燃えカスとは比較にならないほど危険なプルトニウムの恐ろしさには
意図的に、一言も触れていない。
そして、どちらかと言うと政財界による原発イケイケには懐疑的な
NPO・環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さんへの
インタビューを報じていたのが印象的だった。
「核のゴミを受け入れるのはどの地域だってイヤだ。
でも今すぐ原発を全廃するのは難しいから、
節電や代替エネルギーも考え続けることが大事。」
番組の基調は「プルサーマルは必要」というイメージ植え付けを守りながら、
何とか上層部に怒られない範囲で中立的意見を
交えようとするかのような、現場の苦しさを感じた。
そして進行のお父さんお母さん役と、子供レポーターたちのまとめは、
核廃棄物の放射線が何万年も出続けることや、大地震への備えへの心配、
節電の必要性にチラッとは触れながらも、結局
「CO2の排出が減るから原発はあった方がいい。」
「使用済み燃料のリサイクルができるんだったら原発を続ければいい。」
「世界はいま、原発を増やす動きがあるんだよ。」
( ゚д゚ )
という論調で締めくくっていた。
核武装の為には、原子炉を温存・研究し、廃炉の前に新施設の建造が欠かせない。
プルトニウムの備蓄は核兵器製造への布石でもある。
「まずは子供たちを洗脳せよ」とでも言うような静かな圧力が不気味だった。
NHK幹部や経営委員の首がドンドン政財界に都合のいいメンバーと
すげ替えられている。
美しいアジア。
アジアの中の日本に生まれたことを誇りに思う。
戦争しない、核武装しないって、そんなにヘンなことですか?
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この場面は私も一瞬驚いた。
3年前に死んだ親父が末期ベッドで流した涙を思いだした。
小田の自宅療養を放映する、というのは小田の意志だったのだろうか。小田は文のひとである。文章で意志を伝えれば十分であり病躯のみを画面に流す必要はない、とわたしはおもった(まあ、どうでもいいことだが)。
御訪問とコメントありがとうございます。
貴ブログを興味深く拝読しました。
小田さんは、自分が「文のひと」であるということは
アタマでは十二分に判っていても、
現実に自分の生のほんとの終わりを目の前にした時、
敢えて命の燃え尽きる周辺の記憶を「普通の小さな市民」として
普通に遺したかったのかもしれませんね。
瀬戸内さんへの電話口で泣いた話と併せて伺うと、
自分の肉親の死ともしぜんに重なり、
一人の人間への、いとおしい想いにかられます。
社会の大切な宝物がまた一人失われたことが残念でなりません。
改めて合掌。。。