2010年06月09日

預言者

預言者

カリール・ジブラン 著
佐久間 彪  訳
至光社 1984年(上製本)/1990年(ポケット版)

prophet1.jpg上製本版はこれ

prophet2.jpgポケット版はこれ


26章の詩篇のことだまが、ココロに灯をともし、道しるべとなる。
レバノンの哲人ジブラン(1883-1931)が宗教・文化の対立を超えて出み出した果実。

30ヶ国語以上の訳で、80数年間に2000万部以上が読み継がれ、聖書に次ぐ世界の愛読書と言われる。
日本でこの本がほとんど知られていない不思議。

日常生活に埋もれていると、こんな一節にギョッとさせられる。

子供について

そこで、子供を胸にかかえた女が言った。
お話ください。子供のことを。
アルムスタファは言った。

あなたの子は、あなたの子ではありません。
自らを保つこと、それが生命の願望。
そこから生まれた息子や娘、それがあなたの子なのです。
あなたを通ってやって来ますが、あなたからではなく、
あなたと一緒にいますが、
それでいてあなたのものではないのです。
子供に愛を注ぐがよい。でも考えは別です。
子供には子供の考えがあるからです。
 
あなたの家に子供の体を住まわせるがよい。
でもその魂は別です。
子供の魂は明日の家に住んでいて、
あなたは夢のなかにでも、そこには立ち入れないのです。
子供のようになろうと努めるがよい。
でも、子供をあなたのようにしようとしてはいけません。
なぜなら、生命は後へは戻らず、
昨日と一緒に留まってもいません。

あなたは弓です。
その弓から、子は生きた矢となって放たれて行きます。
射手は無窮の道程にある的を見ながら、
力強くあなたを引きしぼるのです 。
かれの矢が遠く遠くに飛んで行くために。
あの射手に引きしぼられるとは、
何と有難いことではありませんか。
なぜなら、射手が、飛んで行く矢を愛しているなら、
留まっている弓をも愛しているのですから。


赤ん坊は「天からの授かりもの」。
未完成な生き物ではない。
ゲノムの中に全ての可能性を備えた、かけがえのない完全体としてやって来る。
ただ、人生の経験がないだけ。
ましてや親の所有物ではない。
小さな仲間に、畏敬の念を持って対し、
しっかり育てて社会にお返しすること。

教育とは、そういうことだろう。
放任しても、過干渉しても、まして小手先で法律をいじっても、子供の幸せには直結しない。

ついつい忘れてしまう大切なもの。
この本は、まるで谷川の水のよう。
手許において、のどが渇いたら、繰り返し読みたい。

この宝物を邦訳された佐久間彪(さくま たけし)神父もまた、
宗教家、神学者としてだけでなく、
作曲家、画家、絵本作家としても素晴らしい仕事を沢山されている。
一体何ヶ国語を操れるのか、知の巨人みたいな方だ。

ちなみに神学校時代のクラスメートは
いまのローマ法王・ベネディクト16世だとのこと。
そんな年輪を忘れさせる、少年のような感受性。

不可逆な時間の矢。。。月日は百代の過客(はくたいのかかく)。

人はたった一人でやって来て、たった一人で帰って行く。

中学生の頃、祖父の弔いで、浄土真宗の和尚様とお話をした時の事。

 管理人:「人が死ぬと、どこかへ行くんですか?」
 和尚様:「死ねば『無』ですよ。大切なのは君達がいかに生きるかです。」

古今東西の思想が同じことを真ん中に置いて来た。
「あ/阿」 〜 「うん/吽」

「オー」 〜 「ム」

「アルファ/Α」 〜 「オメガ/Ω」

「ing/陰」 〜 「yang/陽」

「0bit/生ずること」 〜 「1bit/滅すること」

「ビッグバン」 〜 「ビッグクランチ」

一瞬の生の中、凡人にも、日々の楽しみはある。
すてきな本との出会いも、そう。

ジブランに大きく生き方の影響を受けたと言う
故・星野道夫さんの訳も、シンプルな愛があふれて、いいね。

あなたの子供は、あなたの子供ではない。
彼らは、人生そのものの息子であり、娘である。
彼らはあなたを通じてくるが、あなたからくるのではない。
彼らはあなたとともにいるが、あなたに屈しない。
あなたは、彼らに愛情を与えていいが、あなたの考えを与えてはいけない。
何となれば、彼らは彼ら自身の考えを持っているからだ。

あなたは、彼らのからだを家に入れてもいいが、
彼らの心をあなたの家に入れてはいけない。
何故なら、彼らの心は、あなたが訪ねてみることもできない
夢の中で訪ねてみることもできない、あしたの家に住んでいるからだ。
あなたは彼らのようになろうとしてもいいが、
彼らをあなたのようにしてはいけない。
何故なら、人生はあともどりもしなければ
昨日とともにためらいもしないからだ。


これは大自然への接し方の理想形でもある。
星野さんて、改めてすごい人だと思う。

振り返って凡人の人生は。。。かくのごとし。
100年後に自分を知ってる人は地球上にいない。

ちょっとだけ後の世の中に役立つことを考えながら、
今を精一杯生きれば、それでいいじゃないの(^^)



ジブランはキリスト教徒として貧困の中で生まれ、アメリカ移住後はアラビア語・英語を操り、文学・思想・絵画を横断する活動をし、宗教・民族の違いを超えた神秘主義の高みに到達した。
「預言者」(The Prophet)出版は、1923年。

他にもいくつか日本語訳が出てるので、好きなものから入ればいいと思う。

・成甲書房:船井 幸雄さん「預言者 The Prophet」 (単行本)

・角川文庫:神谷 美恵子さん「ハリール・ジブラーンの詩」(文庫本・部分収録)

・サンマーク出版:有枝 春さん「預言者のことば」 (単行本)

世界的なイスラム書道の第一人者、本田孝一さんも、もう何年もの間、新訳に取り組まれているそうだ。
在日レバノン人の方にお聞きした。

この本には、後に続く人をそうさせるだけの豊かさがある。

珍しくちょっぴり哲学的な管理人でした。
posted by Francisco at 08:19| Comment(1) | TrackBack(5) | 良書百選 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月17日

死の起源

ヒトの細胞1コ1コの中には、たくさんの種族の命の記憶が受け継がれている。

生物学者リン・マーギュリスさん(マルグリス)とサイエンスライター、ドリオン・セーガンさん*の共著による、マジで衝撃的な進化論。
(*宇宙科学者、故カール・セーガンさんとの間に生まれた彼女の息子さん)

 →リン・マルグリス&ドリオン・セーガン:ミクロコスモス―生命と進化 (東京化学同人 ・1989年・単行本)

生物がまだみんなバイキンだった頃、それは「原核細胞」っていう小さくてDNA(遺伝子の記録メディア)むき出しのシンプルなものだった。
親も子もない、分裂して同じものが増えるだけ。寿命というものがない。個体の「死」が存在しないエデンの園。
でも細胞一つを見れば、わずかな稼ぎ(エネルギー)で生きるのに精一杯の、家族で自転車操業の小さなお店。
ある日ミトコンドリア家のバイキン主人は気付いた。

隣の大きな店で下働きしながらイソウロウした方が家賃が浮くじゃないの。
葉緑体家の主人もスピロヘータ家の主人も同じことに気付いた。
あちこちでそんなことが続くうち、巨大な百貨店がいくつもできていた。
こうして色んな器官が取り込まれて今の動植物のもと:「真核細胞」が誕生したんだって。
大事なDNAも核膜っていう立派な大金庫に納まった。
複雑な流行にも対応できるように「性」を発明して、世代が変わるたびに違う顔かたちや体質をもてるようになった。
そして生命は度重なる大絶滅を何度も乗り越えて、今日まで続いて来た。

ただ代償は重い。禁断の果実をかじった生き物は寿命を持った。
つまり「死ぬ」運命になった...続きを読む
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2007年03月14日

熱帯雨林・夢の架け橋

熱帯雨林研究の伝説的生態学者、井上 民二さんが志なかばで急逝してから今年で10年を迎える。
井上さんは京都大学生態学研究センター教授として、若い仲間たちと一緒にボルネオ(カリマンタン)島のジャングルで、あらゆる生き物が共生する仕組みを解明しようとしていた。
植物の受粉戦略が昆虫を進化させ、昆虫の生態が植物を進化させる。
ページをめくるたびに驚きの連続が待っている。

井上 民二: NHKライブラリー/生命の宝庫・熱帯雨林(日本放送出版協会・1998年・ソフトカバー単行本)

熱帯樹林の頂上は、深海底と並んで人類が足を踏み入れた事がない、最後のフロンティアだ。
井上さんは熱帯雨林の地上40mの林冠に、「キャノピーウォークウェイ」という吊橋を架けた。
これなら木や動物・鳥・昆虫の生活を荒らさずに、その驚くべき世界を観察できる。
これは今や熱帯雨林の生態研究になくてはならない標準的手法になっている。

この本を読む者は、ヒトを産み育ててくれた大自然の精妙さへの、いとおしい思いに打たれることだろう。
井上さんは1997年9月6日、研究フィールドへ移動中、この本の上梓を待たず小型機の墜落で亡くなった。享年49歳...続きを読む
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2007年03月12日

菌の惑星

他の惑星の知的生命体が地球に来て、一番栄えてる生物は何だろうと調べ始めたら、
最初は細菌(バクテリア)なんかの微生物だと思うだろうって言われて驚いた。

環境問題を話題にする時、ソーラー・風力と並んで代替エネルギーで耳にする「バイオマス」。
微生物でアルコールなんかの物質を生産する意味でよく使われるけれど、
元々は「生き物のカラダの分量の合計」のことだ。もっと簡単に言うと、「全員の体重」。

意外な事に、バイオマスで見れば、地球上を支配するいのちは微生物が圧倒的だそうだ。
あとはせいぜい海洋プランクトンや、森林を含めた植物が少々で、動物界はあってもなくても変わんないくらい小さい。
さらに動物界でも繁栄してるのは節足動物(昆虫・エビカニ・クモダニ)、その中でも昆虫だけ。
歴史的にも40億年近い生態系の中で動植物がうぶ声を上げたのは、せいぜい数億年。その前はずーっと単細胞の地味な歴史が続いていた。
地球の実態はヒトなんか無に等しくて、「微生物の惑星」ってことになる。目からウロコ。

ジェームズ・ラブロックさんとリン・マーギュリス*さんは、地球の生命圏が一つの大きな生き物みたいに、その体調を一定に保とうとするんだという説を提示。
それをギリシャ神話の大地の女神にたとえて「ガイア仮説」って呼んでいる。

ジェームズ・ラブロック:「地球生命圏―ガイアの科学」(工作舎・1984年・単行本)

ジェームズ・ラブロック:「ガイアの時代―地球生命圏の進化」(工作舎・1989年・単行本)

20年も前の本だけど、自分が世界観を大きく変えさせられた、あの頃の輝きを全く失っていないと思う...続きを読む
posted by Francisco at 03:22| Comment(0) | TrackBack(1) | 良書百選 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月28日

ドミソがハモれないワタシ

バンドやコーラスをやってるけど、いまいちハモらない。そんな経験ありませんか。
あ、ない。でもこの本は音楽に深く係る人には必携のスグレ本ですよ。

平島 達司:ゼロビートの再発見(ショパン・2004年・単行本復刻版)ゼロビートの再発見

故・平島 達司さんは元々エンジニアだけど音響学に造詣が深くて、「19世紀より前の音楽の響きは今とぜんぜん違ってた」って事を科学的に実証したばかりじゃなくて、沢山の一流の演奏家たちの活動をテクノロジーの面からサポートし続けた。

今、世間で使ってるピアノの調律は「平均律」といって、どんなキーも楽に弾ける半面、「コード(和音)がいつでも少しだけ濁っている」。大多数の人は小さい頃からこの音を刷り込まれちゃってるので、ピンと来なくなってる。

一方、モーツァルトが弾いてた音は「古典音律」だったから、コーラスやストリングスのアンサンブルと同じで、透明なハーモニーだった。それに、キーを移動すると、音色の感じまで変わっちゃうというものだった。
つまり「ハ長調(Cメジャー)の音色」、「変ホ長調(Eフラットメジャー)の音色」っていうものが実在したんだね。
昔のヨーロッパ人は、ずいぶん豊かな音の世界を楽しんでたらしい。

「ゼロビート」というのは、濁り(音のうなり、ビート)がない、ピュアで透明な音の状態のこと。

つまり、現代人の大半は「ドミソ」のホントの響きが分からなくなっているんだな...続きを読む
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2007年02月25日

わら一本の革命

人の生き方を変えるかもしれない本って、こういう本だと思う。
福岡 正信:自然農法 わら一本の革命 (春秋社・1975年・単行本)わら一本の革命

スーパーで野菜・くだもの・魚やその加工品を手に取ると、実に色んな国からはるばるやって来ていることがわかる。
こうしている間にも、どこかでお腹を空かせて泣いてる子供がいっぱいいるんだろな。

「自然農法」という農業のかたちを実践する福岡 正信氏。
農業を哲学にまで高め、海外ではものすごく有名で尊敬されている人だ。
カンタンに言うと「耕さない。」「除草しない。」「無肥料。」「無農薬。」と言うこと。
種をまいた後は人の手をかけず、自然の力にまかせてしまう。
「雑草と作物」っていう区別はそこにはない。色んなものが共存してちゃんと育つのだそうだ。
極貧の土地でも可能な、世界の食糧問題を解決する切り札として注目されている。

国際砂漠防止会議に招きで自然農法による砂漠化防止の指導をし、アフリカ・アジア・アメリカ・ヨーロッパ各国で、タネ入りの粘土団子を空から蒔く自然農法を説いて回っている。
この地球緑化の取り組みが評価されて、88年にインドの「最高栄誉賞」、フィリピンの「マグサイサイ賞」など数々の国際的な賞を受賞している。

この本は世界17か国で翻訳されてるのに、ナゼか福岡氏は日本でだけは殆ど知られていない...続きを読む
posted by Francisco at 22:55| Comment(0) | TrackBack(1) | 良書百選 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

腸の中の宇宙

プレーン・ヨーグルトって優しい味わいで美味しいね。今朝も食べた。

 人間の体の細胞は60兆個。でも腸の中の細菌(バクテリア)は100兆個!
カラダの細胞をはるかに超える数の命がヒトの健康を支えている(*)。

これって、結構すごくない?

 →光岡 知足:健康長寿のための食生活(岩波書店)健康長寿のための食生活


 もひとつ→光岡 知足:老化は腸で止められた
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posted by Francisco at 10:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 良書百選 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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